マリンサービス事業部 河原です。
前回の続きですが、
燃料油が低硫黄のMGO(Marine Gas Oil)になることによって、
他にも問題が生じてきます。
前回は燃料油による問題でしたが、
エンジンの潤滑油に関しても問題が起きる可能性があります。
それはシリンダ油のアルカリ価です。
一般に船舶のエンジンは高硫黄のC重油を燃料として使用します。
そのため、燃焼後にはSOXといわれる硫黄酸化物が生成され、
水分と結びつくことで硫酸が発生します。
そうすると、エンジンは鉄で出来ていますので、
硫酸によって腐食されてしまいます。
これを低温腐食と呼んでいます。
この低温腐食を防ぐために、
シリンダ油にはアルカリ性の添加剤が入っています。
この添加剤によって酸を中和するのですが、
添加剤の量が多すぎると、
使われずに残ったものがピストンに堆積してきてしまいます。
この添加剤はカルシウム分で出来ており、
堆積物は堅いことから、
ボアポリッシュといってシリンダーの壁面(ライナー)を
磨いてしまう恐れがあります。
通常のC重油を使用していれば問題ないのですが、
ECAの0.1%という超低硫黄分の場合、
通常のシリンダ油では中に入っているアルカリ性の添加剤が
多すぎるということになります。
ECAでの航海時間にもよりますが、
添加剤の過多は、ボアポリッシュの危険度を高めますので、
注意が必要です。
もちろん、低硫黄燃料用にアルカリ価の低いシリンダ油もありますが、
これまではシリンダ油を使い分けるという考えが無かったことから、
船舶で2種類以上のシリンダ油を備えられるものはまだ少なく、
そのためにはドックでの大幅な改造が必要になってきます。
この添加剤の過多によるトラブルは、
どの程度の航海時間で問題が生じて来るか
まだ始まったばかりということもあり分かっていません。
まだ、ECAの規制強化による大きなトラブルは
聞こえてきませんが、
今後ますます厳しくなる環境規制のなかで
船舶のエンジンも大きな過渡期に入っています。